百式とナガノ博士と中学生だった自分
米Forbs誌が永野護さんと出渕裕さんにインタビューしました。
新情報がもりだくさんで、読み応えがありました!
ガンプラ野郎的に一番衝撃的だったのは、永野さんが「逆襲のシャア」用に大量のデザインを描いていたという事実。
機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 4KリマスターBOX (4K ULTRA HD Blu-ray&Blu-ray Disc 2枚組)
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「機動戦士ガンダム」から14年後の宇宙世紀を舞台にした、アムロとシャアの最後の戦いを描いた作品です。
富野さんが「重戦機エルガイム」以降も、永野さんと仕事をしようとしていて(「Zガンダム」で途中退場した)永野さんを「ガンダムZZ」で再起用しようとしていてそうならなかったのは知っていましたが、これは初耳。
と、思っていたのですが、これも既出だったみたいです。
わたし的に初耳だったので、このまま続けます。
さくっと調べてみたところ、現状はこうなってるみたいです。
ナイチンゲールは、「逆襲のシャア」でシャアの愛機となったサザビーの強化発展型として公式に組み込まれていますね(原作者である富野監督の著書に登場していても即公式とならないのがガンダムのややこしいところ)。
ナハトガルは、ナイチンゲールのルーツに当たる機体と位置づけられています。
ガンプラ野郎ですので、未発表のデザインがあれば何があろうと見たいというのが一番正直なところなのですが「永野護デザインのモビルスーツ」というのは、そこにプラスして、特別な意味合いがあります。
まず1つはデザインとしての素晴らしさです。「機動戦士Zガンダム」の中で登場した永野護さんのモビルスーツは百式、キュベレイを初めとして、10年、20年と時を経ても色あせないデザインです。
当時はその先鋭さが「モビルスーツらしくない」と忌避されて、降板の理由とされていたみたいなのですが、この30年で、ガンダムの幅も大いに広がりました。
羽根の生えたガンダム。
ヒゲをはやしたガンダム。
もはやガンダムだらけの大運動会となってしまった現在においては「らしくない」ガンダムこそが「記憶に残してもらえる」ガンダムといえるのかもしれません。
そして、理由の2つ目は、宇宙世紀世界(アムロやシャアのいた世界)には「M.ナガノ博士」なるキャラクターが存在するということです。永野護さんがベースデザインをした百式を開発した人物とされています。そのまんま。
ガンダムのデザイナーでこのような扱いを受けている人は他にはいません。
ミノフスキー粒子の生みの親であるミノフスキー博士の命名が富野さんから来ているというのはありますが、少なくとも外国人風(ロシア風)にモジっていますし、なにより原作者で総監督です。
「M.ナガノ」なんて、そのまんまの名前が通っているケースは、永野護さんが最初で最後です。
というか永野さんは、若干24歳、サンライズ入社数ヶ月で、当時サンライズの看板タイトルであった「重戦機エルガイム」のメカ&キャラデザイナーに起用されるとか、そもそも4クール作品のメカとキャラクターのデザインの両方を一人で担当するとか、最初で最後が多すぎる人なのですが。
ともかく特別扱いしたくなるような、伝説的な人なのです。
特別扱いというと、シャアが乗る「百式」という機体、「機動戦士Zガンダム」のなかでも、設定的に浮き上がった感じのする機体です。
形式番号「MSN-00100」
Zガンダム当時、モビルスーツにつけられる数字は3桁でした(「RX-178」ガンダムMk2、「MSZ-006」Zガンダム)。
なぜか百式だけが、5桁。
そしてMSNはジオン系ニュータイプ用モビルスーツにつけられるナンバーです。ジオン系の機体ならまだしも、ガンダム系の意匠を持つ百式に付けるようなアルファベットではありません。
設定的には、
- リック・ディアス(RMS-099)の後継機だから「RMS-100」
- アナハイム・エレクトロニクス社製だから「MSA-100」
となるのが妥当なところです。
なのに「MSN-00100」
そして、百式につけられた「MSN」の「N」は「ナガノ」の「N」なのです(公式設定)。
開発者のイニシャルを背負ったモビルスーツなんて、先にも後にも、百式しかありません。
この設定が承認されたのは、軽い気持ちだったかもしれません。
この「MSN-00100」とか「ナガノ博士」という設定を考えたのは、アニメのメインスタッフではなく、雑誌側の人や、プラモデルのインスト担当者とかだったのかもしれませんし、それを承認したサンライズ側の担当者も、永野さんが外されたことに同情的な気持ちだったのか、単なるお遊びとしてOKしたのか、そこのところはわからないです。
けれど、その設定をオフィシャルとして受け取った中学生がいるんです。
圧倒的な物量をもった設定それ自体が、物理法則のような強制力を持ちだしているガンダムの世界において、唯我独尊的に、ルールを無視した形式番号を持つことが許されたモビルスーツ百式。そんな名機を作り出しながら、モビルスーツ開発史から姿を消したM.ナガノという人物。そして富野監督が使うといっては降ろされている永野護というデザイナー。
それらの奇妙な符合を、意味があるものとして受け取ってしまった中学生がいるんです。
わたしです。
理由の3つ目は「逆襲のシャア」で登場するνガンダムやサザビーは、アナハイム・エレクトロニクス社で作られた機体だということです。
そう、M.ナガノ博士が所属していたアナハイムです。
永野さんが「逆襲のシャア」準備段階における、νガンダムやサザビーにあたる機体のデザイナーだったという事実を聞くだけで「百式開発後に、特別な事情で、M.ナガノ博士は表舞台から退かざるを得なかったけれども、博士はその後もモビルスーツ開発に携わる仕事を続けていて、サイコフレーム搭載機開発計画にも関わることになった」……などという筋が、頭のなかに自然と立ち上がってきて、もうワクワクするしかないんですよ。
そして、サザビーの形式番号はMSN-004です。
ジオン系ニュータイプ用モビルスーツだからということでMSNなのですが、ナガノ博士が一枚噛んでいたことになれば、ナガノ機という意味での「MSN」という意味もくっついてきます。
こういう設定の流れが好きなのは、わたしだけではないと思います。
永野護版サザビーである、ナハトガルのWikipediaの記述にはこうあります。
また、MAN-104の型式番号の他「MAN-104/MSae-39-20001-X-19D( - 20006-X-19D)」というアナハイム社内での統一コードが設定されており、キュベレイは「MANae-103-10001-X-15B」であるとされる。
キュベレイというのも永野護デザインの機体なのですが、物語上は百式を作ったアナハイムとはまったく別の組織であるアクシズが開発した機体です。
ですが、アクシズにアナハイム・ジュピターという開発会社があったことにして(そんな設定は原作にはない)、キュベレイの開発技術がナハトガルに継承されたという筋を書いた人が、業界のどこかにいるのです。
そして物語上、νガンダムはサザビーの開発技術が投入された機体ということになっています。「性能の差で勝った」と言わせたくないがために、シャアは自分だけが持っていた最先端の技術をわざわざアムロ側に供与したのです。
そして、νガンダムの武器といえば背中に背負ったフィン・ファンネルなのですが、ファンネルという武器を搭載した初めての機体が永野護デザインのキュベレイです。
ええと、ただのこじつけじゃないのかって?
いいんです。プラモデル趣味の半分は脳内妄想で出来ているんですから!
降板には、いろんな人の思惑や事情もあったでしょうから、いまさらHi-Sガンダムの画稿が発表できるかというと、それも難しいことかもしれませんが(なにより永野さんが望んでくれなければ実現しない)、妄想だけでプラモデルを買いたくなるような記事でした。
ありがとうございました!